最近、ソリストであれコーラスであれ、オペラのステージに立ってひとりのキャラクターとして三時間弱をそこで過ごす、ということについて考える機会があったので、少し掘り下げてみたいと思います。それをするためにはいったい何が大切なのでしょうか。


役づくり?
もちろん大切です。

常に客席と指揮者、共演者との自身の立ち位置を考慮する?
必須です。


私が重要だと信じるもの、それは『立つ(動かずに静止する)という行為の追求』です。



まずはじめに。
「キャラクターとしてステージに存在する」ためには、演じる役柄の身体的特徴や精神状態、生きてきた記憶などからもたらされる息づかいや表情、全身の筋肉の状態を細かく深く理解しなければならない、と私は感じています。

しかしながら、それと同時に。
まず歌手として、どんな舞台であれ(八百屋※1 だろうが盆※2の上だろうが)真っ直ぐに、体軸をぶらさず、低く重心を保ちながら立っていられることが大前提、かつ最重要なのです。
それだけで舞台では実際の身長よりも身体が大きく見え、スポットライトが当たっていなくても何となく目で追ってしまう存在、月並みな言葉ですが『オーラを纏った存在』になります。
※1 八百屋舞台:舞台の奥が高く前が低くなっている舞台。
※2 舞台機構の一つで、舞台上に大きなお盆のように作られた回転する床。

役者さんでもダンサーさんでもそうですが、美しく正しく立てる、止まっていられる方を見てお客様は、台詞がなくても踊らなくても「あの方なんだか上手そう」と感じるものです。
オペラ歌手も同じこと。
歌わずともお客様にはすぐに分かってしまう。その場しのぎのような誤魔化しは、絶対に通用しないのです。

この『立つ(動かずにそこにとどまる)行為』は日々の努力や注意を怠ると途端にできなくなってしまう、非常に繊細な技術・行為です。
もちろん、生まれながらに素晴らしい身体能力と勘を持っていて、難なくやり遂げてしまう方もいらっしゃるでしょう。
しかし、そんな人は極々僅かだと私は思います。
私に関して言えば、残念ながらそのような人間ではありません。

だからこそ、オペラの舞台に立って歌手としての自分をアピールするため、立つことの正確さ・再現性の高さに常に注意していこうと思います。

ではまた😘